Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

   “あのね、聞いてくれる?” 〜別のお話篇

 


まだ梅雨も明けてはおらぬ、七月上旬だというに。
期末考査が済んだ身の高校生らは、
もはや夏休みに入ったも同然というタイムテーブルで行動しており。
大学生に至っては、
七月に入ったと同時、
遠出もオッケーの純然たる夏休みとなってしまう。

 「必ずしも…とは言えないが。」
 「でもでも、
  進さんトコは 試験もしくだいも九月だってゆってたもん。」

しくだい…宿題? 大学生が? あ、レポートのことだなと。
ぱぱぱっと閃く素早い思考の下、
言葉足らずなセナ坊やの、
だのに一丁前に“憤懣やる方ない”というお怒り発言が繰り出されるのを、
へえへえ、それからどうした、と。
絶妙即妙な相槌と共に、
ふんふんと聞いてやってる金髪の子悪魔さんであり。
ほんの先日にも
サバンナの雨季かというほども降った大雨が
まるで嘘だったかのようないいお日和の下、
時折そよぐ風には木陰を通った涼しさが染みている、
そんな心地のいい芝草の上へ大きめのパラソルをおっ立てた、
グラウンド脇、鬼軍曹専用の監視コーナーベンチへ、
今日はお久し振りにゲストありという様相。

 「何であの坊主までこっちに来てるんだ?」
 「それがよ。」

賊学大アメフト部“フリル・ド・リザード”の皆様にも
もはや顔なじみのあどけない坊や。
もしかせずとも彼のほうこそが
性格も見栄えも今時の小学生の標準タイプの、
小早川さんチの瀬那くんが。
彼の所属(?)は
王城大“シルバーナイツ”ではなかったか?というに、
何でまた賊学大のグラウンドへおいでなのやら…と。
そこまでの事情を知っておればこそ、
小首を傾げる皆様なのへも…いろいろと突っ込み所は多けれど。

 「葉柱さんへ車で来いって、ウチの坊主が言って来て、
  ガッコからそのまま二人で来たらしいぜ?」

クラスメートとはいえ、
こちらは同じ小学生でありながらも、
大学生のしかも“族”のメンツでもあるおっかないお兄さんたちを
何の威光も借りずの上から見下ろし、
容赦なくビシバシしごく鬼軍曹な蛭魔妖一くんと共に、
自分のホームグラウンドではない方のガッコのアメフト部まで、
何でやって来た坊やかといや、

 「シルバーナイツといや、
  七月に入ってすぐ、合宿にと海外へ発ってったらしいからな。」

 「おおう、それでか。」

それでかと納得行くあんたらも、一体どこまで事情通なのか。

 “どうせなら、今期のラインの連携の癖とか、
  QBの投擲の際の間の呼吸とか、
  そういうもんへの事情をこそ掴めよな。”

ずんと背後でのこそこそとした会話も
きっちりと拾っておいでのヨウイチくんはといえば。
それは後でシメるとしてと、キッチリ頭の中へメモしてから、
今はこっちが大事な、小さなお友達と向かい合う。

 「今年は節電の夏だし、
  おまけに相変わらず“円高”の夏でもあるからな。」

それが旅行でも合宿でも、
海外でやっつけたほうが何かとお得というもので。
いやさ、あの王城がそんな条件でそう運んだとは思いませんが、
確かドイツに馴染みにしている古城ホテルがあって、
長期休暇ともなりゃ、
高校も大学もそこで合宿を張るのがもはや恒例の学校だもの。
今年は行かないという理由を見つけるほうが難しいというもので。

 「セナだって、合宿は大事ってゆーのは判ってるもの。」

アメフトが大好きで、
アメフトにつながる練習は何よりも大事にしている
そんな進さんだってことくらい、
ちゃんと御存知なセナくんとしては。
もう小さな子供じゃなし、
駄々を捏ねてるばっかじゃいけない、
仕方がないなぁという“理解”もちゃんと出来てはいるものの、

 「でもサ、
  お誕生日おめでとうくらいは、
  お顔見て言いたかったなぁって。」

一年に一回きりの大切な日なのにな。
それが何とも残念ならしく、
かわいらしいお顔と愛らしい癖っ毛の乗っかった頭を、
小さな肩の上で かっくりこと傾けて見せ、

 「きゃ〜んvv」
 「かわいい、かわいいvv」

女子マネの皆様が沸くこと沸くこと。

 「妖一くんも勿論、凄っごく可愛いけどvv」
 「うんうん。」
 「タイプが違うっていうか。」
 「いかにも“小さい子”って可愛さだものね♪」

王城が海外へお出掛けなんなら、
その間はこっちへ来ててくんないかしら。
あ、それイイ…vv、
アタシ、毎日でも冷たいデザート買ってくるよ、と。
結構お気楽な声まで飛び出しているほどで。

 “う〜ん、確かにお気楽。”

セナくん目当てに毎日出て来ると、いうことは、
夏の合宿に出て来るのを、頑張れるよということでもあって。
元気なのは有り難いものの、
その可愛らしい坊やの
深刻なお悩みからは随分と遠いところを、
しかも有り難がってどうするよ、と。
女子マネリーダーのメグさんが、おいおいと肩をすくめておれば、

 「ま、今日のところは、
  ネットでのチャットで顔合わすだけで我慢しな。」

ランドセルに似ているが、実は実は、
ちょっぴりお洒落なデイバッグを背負って来たらしい子悪魔様。
そこから取り出したのが、流行のタブレット端末…らしかったが、
何やらぱたくたと、一見すると旧式のバッテリのような、
はたまた、一口羊羹を思わす機材をそれへとくっつけての、さて。

 「ほれ、あっち見な。」

仕上げにスマホを手に、それであっちと指したのが、
いつの間に設置されたそれか、
グラウンドの横手に設置されてあった金網フェンスへ
広々と広げられてあった大スクリーン。
丁度、サツキの茂みの切れ目のところに、
ちょっとした大判屏風ほどもの広さを占める、
白い幕が張られてあって。
それへとスマホを“えいやっ”と振り向ければ、

 【 …あ、ほら来たよ、進。セナくんが映ってるでしょ?】

そんなお声と共に、スクリーンの真ん中に映し出されたのは、
ここにおいでの皆様、重々見覚えありまくりの お不動様。
もとえ、王城シルバーナイツの殺人ラインバッカー様こと、
進清十郎さんではありますまいか。
え?と半ば呆然としつつの立ち上がり、
そちらを凝視しているセナくんの、

 「進さん?」

愛らしいお声のか細さを聞いてしまっては、

 【 セナか?】

背中?なんてベタなツッコミを入れるほど、
野暮なお人はさすがにいないけど。
どうやらライブの映像らしい、王城の殺人ラインバッカーさんが、
つかつかつかとこちらへ歩み寄って来、
恐らく、向こうのカメラへの接近となったせいだろう、
随分な大きさで映ったそのまま…少しばかり斜めに歪んだものだから、

 “何をやったんだ?”

ついつい皆して、真っ直ぐ見ようとしてのこと、首を片やへ傾けておれば、

 【 わっ! 進、テレビが壊れるっ!】

そんな言いようがさっきのお声で届いたことで、

 “そか、向こうの操作は桜庭が担当していて。”
 “向こうはテレビらしいモニターに、あの怪力で掴み掛かった、と。”

あ〜あ〜あ〜あ〜と納得がいく連携も大したものだが。
こちらは等身大の映像だから、
間近に寄らずとも表情もしぐさや態度もようよう判る。
ただ、

 「あれ、どうやって映してんだ?」
 「あ? プロジェクターじゃね?」
 「だってよ…。」

その真ん前にセナくんが近寄っても、映っておいでの進の姿は遮られぬまんま。
ということは……。

 「おうよ。有機の新素材で出来てるモニターだ。
  スクリーンの上へどっかから映してんじゃなく、
  プラズマテレビと同じで、そのものへ映し出されてんだよ。」

 「ゆうきの もにたー?」

セナくんではなくの、大学生が、
どういう漢字が当てはまるのかさえ判らないらしい、
抑揚の単調な繰り返しをしたのへこそ、

 “おいおい…。”

ややもすると呆れつつ、それでも気を取り直した鬼軍曹殿。

 「賊学の野郎どもは今からロードワークに出発。
  木陰の多いコースどりしてやったし、
  給水班が伴走するから熱中症は心配いらんぞ。」

ほれほれ行った行ったと、大学生のお兄さんたちを追いやっての、
セナくんの逢瀬の邪魔をすんなと間接的に追い払ってしまい。

 “で。
  ロンドン五輪を観戦しに行かねぇかってのは、
  どこで言ってやったら一番のサプライズかな?”

ドイツでの開催ではないので まだまだ距離は残すものの、
地球の裏側レベルじゃなし。
時差も少なきゃ、その日のうちに会いにも行けようところへのお出掛け。
思わぬところでくじ運のいい子悪魔坊やが、
商店街の七夕福引で当てたんだそうで。

 『何だ何だ、そんなもんで当てずとも。』

俺が連れてってやったのにと、
冗談抜きでナンボでも伝手やコネをお持ちらしいお父様が
そんなケチをつけた腹いせも兼ねてのこと、

 『じゃあ別行動で出発して、向こうで逢おうや。』

1家族5名様までという、旅券と宿泊代、開会式開催会場への入場チケットは
俺が仲間うちで使い切るからよろしくと、
小学生の強がりじゃあないレベル、
そのくらいは余裕で可能な坊やに言わせてしまったお父様が
“あああ、しまった”と嘆いたのはおいといて。

 「というワケだから、
  そっちのスケジュール、メールで送っといてくれよな。」

スマホでの国際通話にて、
向こう様の付き添い人との、
まずはの打ち合わせに手をつけていた子悪魔様であり。

 “俺も付き添いでついてくコトになんのかな?”

何か合宿以外の夏休みの予定がもう決まったとはなと、
葉柱さんがほりほりと後ろ頭を掻いてる傍ら。
一番の核でありながら、
今はまだ何にも知らないまんまの小さなセナくんが。
等身大の大きさへ戻った進さんへ、

 「あのねあのね、進さんvv」

お誕生日おめでとうから始めておいでの、
おっとり加減が何ともはや。(苦笑)
周囲のどたばたも何のその、
マイペースから来る この時差もまた、
彼ららしい微笑ましさだことと。
若葉がそろそろしっかりして来たスズカケの梢が、
それは軽やかにさわさわ揺れてた、初夏の午後でございます。



  
HAPPY BIRTHDAY!  SIN SEIJUUROUvv



     〜どさくさ・どっとはらい〜  12.07.09.


 *トレーニングおたくだからじゃあなく、
  チームそのものが欧州への合宿に発っていた王城。
  七夕がどうとかは言わないが、
  マスコット坊やと鬼強いラインバッカーさんのお楽しみを
  むしり取るよに引きはがすとは。
  大学の監督は
  庄司監督から申し送りとかしなかったんでしょうかね。(おいおい)
  進さん自体が自分のお誕生日なんて覚えて無さそうなので、
  桜庭さんはさぞかしハラハラしてたんじゃあなかろうか。
  セナくんが気の毒なのもありますが、
  絶対ヨウイチくんが黙ってないって判ってるものねぇ。
  『桜庭、お前、何やってたっ!』とか叱られるのかなぁ、
  ボク こいつの保護者じゃないのになぁと、
  先んじて判ってしまう刷り込みの恐ろしさ。
  こんなおっかないことがありましょうか。(…こら)
  とはいえ、ロンドン五輪もあることですんで、
  向こうで逢瀬という小じゃれたことを思いついてくださったのは、
  もしかして日頃の行いのよさのせいかもだぞ、桜庭。

  ………桜庭くんのファンの人、すいませんの巻でした。

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